はじめに

1.世界の基準

心理社会的ケアやサポートは、今や世界中の「心のケア」におけるスタンダード(標準)な手法です。心理社会的ケアは「集団を基礎とし」「各々の個人の内面のユニークな表出を刺激し」「集団で受け止め」「多くの気づきや意識化を促し」「それをまた個人の内面に返していく」という非常にインタラクティブな手法です。これまでどの分野にも属さないで、優位な発展を遂げてきたのは、
特に心的外傷(トラウマ)の治療とPTSDの予防という大きな役割を担ってきたからだと思います。
ジュディス・L・ハーマンの「心的外傷と回復」に添ってこの手法は有機的に展開できて、もっとも世界で知られた「心のケア」のモデルです。

ジュディス.L.ハーマン

日本ではまだまだ知る人も少なく、途上にあるかの印象かもしれませんが、
それはただ単に日本人が「トラウマに向き合いにくい文化背景」を持っているからかもしれません。
「寝た子を起こすな」「そっとしておけば忘れる」などの、向き合う事に対して消極的な姿勢がこの手法の発展を妨げてきたように思います。
しかし世界では既に「標準的な」心のケアのモデルです。

拡がる心理社会的ケア〜ジャワ島

しかし今や時代は進み「どんなに辛くても向き合うことはとても大切」という思考が少しずつ日本社会にも浸透しつつある中で、
時流を得てこのセンターを開設する運びとなりました。皆で共にこの「心理社会的ケア(サポート)」を実践していければと思っております。

2.国際協力の世界での展開

国際協力の分野〜四川大震災

心理社会的ケアやサポートは、そのターゲットを「心的外傷(トラウマ)」に当てています。従って紛争、災害、貧困に関わる心的外傷が認められる母集団はすべてその対象となります。
それはその人の心に心的外傷があるかどうかを事前調査して実施するものではなく、「心的外傷となる出来事があった」ということを持ってしてその適応対象とします。つまり、紛争や災害、貧困によって命の危険を感じたという事実があればすなわち「適応」となるのです。
そして心理社会的ケアが目指すものは心的外傷を放置することで起きるであろうPTSD(心的外傷後ストレス障がい)を予防することです。従って見た目には元気な集団であっても心的外傷の出来事を経験しているとしたら、PTSD予防のために心理社会的ケアを実施する必要があります。
これまで桑山は日本の3つの団体に「専門家」として派遣されることで、国際協力における心理社会的ケアを推進してきました。
今後もこの分野で国際協力を展開したいという日本のNGOやJICA、外務省の要望に応えて、そのノウハウを伝え、このケアモデルが日本の国際協力の中で大きな役割を演じることが出来るように進められていくことを願っています。
外務省のNGO連携無償資金協力も、この分野のスキームを認めてくださり、共に活動をする時代に入っています。

3.学校現場での展開

学校現場で展開する

心的外傷をそのターゲットとしている心理社会的ケアは、学校現場においても有用です。いじめや友人間でのトラブル、家庭内での暴力などで心的外傷を受けている子どもたちは、それを放っておけばやがてPTSDを発症していきます。
それを予防するために心理社会的ケアを学校現場で導入することはとても重要です。
ニュースなどで大きな災害や殺人事件、交通事故などにより同級生が亡くなったりした時に必ず「心のケアの導入が求められています」と報じられます。しかし実際にはスクールカウンセラーに任せきりになる場合がほとんどであり、心理社会的ケアが用いられるケースはほぼ皆無です。スクールカウンセラーには数にも限界があります。ぜひこの手法も用いて学校内における心理社会的ケアが盛んになることで、有効な「心のケア」が展開できるものと考えています。
ぜひ、この「心理社会的ケア」を学び、実践してみませんか。専門知識も必要なく、臨床心理士、公認心理士などの資格も全く必要ありません。このケアモデルを実践したいという「熱意」が最も大切です。心のケアは専門家のみが行うものではなく、広く多くの人が関わって初めて成り立つものと考えています。
皆様からの気軽な連絡をお待ちしております。

4.センター長 桑山紀彦

センター長・桑山紀彦〜パレスチナにて

心理社会的センター長は 桑山紀彦(精神科医、心療内科医)です。
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